ピッチャー・力んで投げると打たれる3つの理由 サッカー遠藤保仁選手のパスの秘密

こんにちは
BASEBALL FUTUREの
依田徹平です。

投手のレベルを測る最もわかりやすい指標が球速です。それは単純に遅いストレートよりも速いストレートの方が打つまでの準備時間が短く打ちづらいからです。そのため投手はここ一番で打たれたくない時にストレートで勝負をする場合、目一杯力をこめて「力んでボール」を投げます。しかしこの力んで投げたボールは上手く決まることが少なく痛打されてしまうケースも少なくありません。

だからこそ指導者からも「リラックス」や「リリースだけに集中しろ」といった言葉を選手に投げかけるのだと思います。

実際に力んで投げた球とそうでない球が打たれた割合を表すことは難しいのでどうしても実感ベースでの話になってしまいますが、「力んで投げると打たれる」を裏付ける3つの根拠をお伝えしていきます。

理由は下記の3つ
・制球が乱れる
・フォームが乱れ回転軸が下がる
・打者の反応が速くなる

制球が乱れる

まず一つ目の理由は制球(コントロール)が乱れることです。これは想像がつきやすいと思いますが、やはり力んで速い球を投げようとすると制球が乱れます。どんなに速い球でも打者が打ちやすいところにボールを投げてしまえばある程度レベルの高いバッターには痛打されてしまいます。

制球が乱れる原因としては力むことで体の開きが早くなったり、そもそも出力したエネルギーを制御するフィジカルを備えていなかったりすることが考えられます。つまり100%の力で130km/hの球を投げられるフィジカルではなく80%くらいの力で130km/hを投げられるフィジカルを身につける方が体をコントロールしやすいので制球が乱れづらいということです。これはキャッチボールで試してみても直感的にも理解できると思います。

フォームが乱れて回転軸が下がる

投手指導の際にラプソードという投手の球速や回転数を計測する機械をよく使います。その時通常のピッチングとは別に球速を意識して力んで投げてもらうことがあります。そうすると多くの選手が球速や回転数が上がりますが、回転軸が下がり縦の変化量(ホップ成分)が少なくなってしまいます。

下の画像はラプソードの計測画面です。

力んで投げた時

普通に投げた時

 

普通に投げる時よりも少し力んで投げた時の方が球速が1km/h、回転数も100回転ほど上がっています。しかし右上の縦の変化量というところを見てみると普通に投げた時の方が9cm高い数字が出ていることが分かります。これは真ん中上部に記されている【SPIN  DIRECTION】という数値が関係しています。

これはボールが回転している軸を表しており、00:34など時計で表されます。地面に対して最も綺麗なバックスピンは12時の方向でボールが回転する時です。この場合が最もボールが落ちづらく縦の変化量が大きくなり(ホップ成分が強くなる)「伸びがある」ボールということになります。

力んで投げた時は01:24なので時計の短針が1時24分を指している向きでボールが回転しているということです。対して普通に投げた時は12時34分でボールが回転しているので普通に投げた時の方が12時に近いところでボールが回転しているので普通に投げた方が縦の変化量が大きかったということになります。

要するに普通に投げた時よりも力んで投げた時の方が1km/h球速が上がったが、回転軸が12時から遠ざかり縦の変化量が9cm下がったということになります。一般的にはやはりホップする球の方が打ちづらく空振りが取りやすくなるのでこの9cm分ボールが打ちやすくなったと言えるでしょう。(もちろん力んで投げた球速が10km/h以上速くなるのであれば話は別になります)

 

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打者の反応が速くなる

ここまでは野球を長くやっている選手であれば何となく理屈が理解できたり、実感として知っていたりするかもしれません。しかし最後にお伝えする「打者の反応が速くなる」ということはあまり知られていないのでないかと思います。

まず結論から言うと打者は投手のモーションが力んでいるとボールへの反応が速くなるのです。力んでいるかどうかは投球フォームによく現れます。例えばキャッチボールを始めた最初の一球目のフォームと遠投をする時のフォームとでは全く力み方が違うと思います。ピッチングでもやはりここ一番の場面で思いっきりボールを投げようと思うとフォームの勢いや違いがよくわかると思います。

その微妙なフォームの違いを打者は察知して無意識に速い球がくるのに備えようとします。結果球速が上がっても普通に投げる時よりも打者のボールに対する反応が速くなってしまうので打たれてしまうのです。

ではここ一番で打者をねじ伏せたい時はどうすれば良いのでしょうか?
それは力まずフォームを変えずにギアを上げて球速を出すことです。つまり「ゆっくり投げるように見せて速い球を投げる」ということです。これはとても難しい技術ですが、プロの世界でもソフトバンク・巨人に在籍していた杉内投手がまさにゆったりとしたフォームから140km/h中盤のストレートで空振りを取りまくっていたことを思い浮かべると不可能なことではないと思います。

もちろん錯覚を起こさせることが目的なので140km/hや150km/hを投げる必要はなく110kn/hくらいのフォームに見えて130km/hの球を投げることができれば十分中学生や高校生でも実践できると思います。

錯覚で反応が遅れる証拠

錯覚により打者の反応が速くなったり遅くなったりするシーンは野球の場合一瞬のことすぎて分かりづらいかもしれません。そこで錯覚が起きることで反応が遅れる根拠となる映像を他のスポーツを参考にしてお伝えいたします。

1・元サッカー日本代表・遠藤保仁選手

言わずと知れた名選手で「日本代表の心臓」とも言われていました。遠藤選手の特徴は決定機を一瞬で作り出す正確なパスにあります。しかしそのパスの出し方は他の選手と比べると、とても特徴があると私は分析しています。それは決定的なパスを出すような仕草がないことです。普通ゴール前に決定的なパスを出す場合は相手のディフェンスも多くいるので鋭いパスを出すため蹴る前に速いモーションが行われます。もちろんその動きにディフェンスも反応して来るのでそう簡単にパスは通りません。

しかし遠藤選手の場合安全な自陣でパス回しをするような力感で決定的なパスをゴール前に送り出すのです。当然相手は虚を突かれて反応が遅れてしまい、素早く反応すれば取れそうなパスをカットすることができず素通りさせてしまうのです。

下記動画の動画をご覧ください。

もちろん鋭い動きからパスを出すケースもありますが

1:10秒~

2:56秒~

3:23秒~

のシーンをみるとゆったりとしたモーションから決定的なパスをだしており、それに対して相手のディフェンスの反応が遅れていることが分かると思います。

2・アメフトで起きたトリックプレー

次はアメリカンフットボールで起きたトリックプレーです。

ボールを持った選手が相手のディフェンスに正面から歩いて向かって行きます。呆気に取られた相手ディフェンスは何が起きているか分からずボールを持った選手をそのまま素通りさせてしまっています。ディフェンスを抜けたところでその選手は一気に走り出し、そこでようやく何が起きているのか理解したディフェンスがボールを持った選手を追いかけ始めますが時すでに遅くタッチダウンされてしまいます。

もし最初にボールを持った選手が走ってボールを運んだり味方にパスを送る動きを見せたりすればディフェンスも素早く反応できたことでしょう。しかし、ゆっくり歩いてきたことで体が反応できずに混乱をしてしまったのです。

まとめ

こちらの例は競技は違いますがどちらも予備動作や動き・フォームによって対応する側の反応に変化が出ることが理解できたと思います。野球も同じように投手の速い動きには打者も早く反応できてしまうのでいかにいつも通りのフォームや力感で速い球を投げることができるかがバッターを抑える鍵となりそうです。

また反対にチェンジアップやスローカーブなどの遅い変化球は速いボールが来ると思わせて遅い球を投げてバッターのタイミングを狂わすのでフォームでいかに速いストレートが来ると思わせることができるかが大切となります。よくストレートを投げるつもりで腕を振りチェンジアップやカーブ、フォークを投げろと言われるのはこのためです。

球速は速いけど打たれてしまう、遅い球でも相手を抑えたいという選手は今回解説した

・制球の乱れ

・回転軸

・フォームの力感

の3点を意識してピッチングを作り上げてみましょう。








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