なぜ「ゴロ信仰」が消えないのか?
こんにちは
BASEBALL FUTUREの
依田徹平です。
ゴロ信仰
昔から「日本の」野球界で語り継がれている「ゴロを打て」という打撃指導方針。近年ではフライボール革命の影響もあり減ってきているようにも思いますが、レッスンをする中で選手に聞くとまだまだそういった指導があるようで
「ゴロを打たないと変えられてしまう」
「ゴロを打つようなフォームに矯正される」
といった事例があります。
なぜこういった指導が消えないのかと考えた時に考えられることはいくつかあります。
代表的なものをいくつか挙げていきます。
1.フライではミスが生まれづらい
フライは捕って終わりだけどゴロならゴロ捕球→送球→送球の捕球と3つのプレーがあるからチャンスが多いから
2.大きい打球を狙っているように見える
フライアウトもゴロアウトも1アウトに変わりないのにも関わらず、フライで凡退するとなぜか「力んでいる」「大きいのを狙うな」といった言葉をかけられることからも分かるように不思議とマイナスなイメージが強く残ります。指導者としてはゴロでミートしている方がコンパクトに短打を狙っているように映るのでしょう。
3.上から叩けと教わってきたから
最終的には指導者の経験則が強く自分が選手時代に上から叩けと教わってきたから選手たちにもそれを伝えているというケースが多いように感じます。
上記に挙げた代表例は全て抽象的なイメージに過ぎず、データ的な合理性はありません。しかし抽象的であるがゆえになんとなく伝えやすいのでしょう。
こうした根強い「ゴロ信仰」から指導者を脱会させるには抽象的ではなく具体的なデータや考え方が必要になると思います。
ではフライを打つ有効性をいくつかお伝えしていきます。
データから見るゴロとフライ
1.ゴロとフライではどちらが打率が高いのか?
まず分かりやすく有効性を示すにはどちらが打率が高いのかということ。結論から言うとフライの方がヒットの確率は高い2020年のMLBのデータを見るとゴロではヒットの確率が.230に対してフライのヒットの確率は.300となっている。もちろんどちらがエラーが多いかと言われればゴロの方が多くなると思いますが、守備率という観点から見るとプロのレギュラークラスの選手では年間を通して.950以上は残しますし優秀な選手であれば.990以上。つまり1000回打球がきて50回もミスはしないということです。確率にして5%打率で言えば.005です。
もちろんプロと学童野球では守備のレベルは違いますが、中学、高校、大学、社会人とレベルが上がるにつれて守備のミスが減っていくことは間違いありません。そう考えると、上で通用しない技術を選手たちに教えているということにならないでしょうか?技術的な癖というのは染み付いていれば染み付いているほど改善には時間がかかるものです。フライやライナーでヒットを打つことは難しいことですが、難しいからこそ早い段階から練習をして上のカテゴリーでも通用するようにしてもらいたいと思います。
2.OPSの観点から
野球は相手よりも点を多く取ることが勝敗を分けます。そういった意味では失点を防ぐことも大切ですが、攻撃面においてはいかにチームの得点に貢献できる選手か?ということが求められます。そこで以下の選手を比べた時どちらが得点への貢献度が高い選手だと思いますか?
Aの選手
打率.316
出塁率 .375
長打率.420
Bの選手
打率.197
出塁率 .343
長打率.474
おそらく8割以上の方はAの選手の方がチーム得点への貢献度が高いと感じることでしょう。
しかし、OPSという観点から見るとどうでしょう。
野球のOPS(オーピーエス)とは、打撃指標数「On-base Plus Slugging」の略で、打者の打席あたりの総合的な打撃貢献度を表す指標です。出塁率と長打率を足し合わせた値で、数値が高いほどチームの得点に貢献していることを表します。
両選手のOPSは以下の通り
A選手 出塁率 .375+長打率.420=OPS.795
B選手. 出塁率 .343+長打率.474=OPS.817
つまりB選手の方がデータ上はチームの得点への貢献度が高いということになります。
Aの選手は打率こそ高いもののシングルヒットが多く、逆にB選手は打率こそ低いものの長打率が高かったということになります。これは単純に4つの塁を踏まなければ1得点にならないことを考えるとシングルヒットよりも2ベース,2ベースよりも3ベースの方が得点が入りやすいということ。もっと言えばシングルヒットなどは点数が最終的に入るかは分かりませんが、ホームランなら1点以上が「確実に」入ります。
ちなみに記録的なシーズンとなった2024年の大谷選手のOPSは1.036とリーグトップです。
OPSを高める長打を増やすには?
このようにOPSの観点から見ると長打を打つ有効性が分かります。では長打を打つにはゴロとフライどちらが良いでしょうか?これはデータからも印象からも明らかですが、フライの方が長打の可能性は高くなります。フライで長打を打つことを考えると色々なパターンが思い浮かびますが、ゴロで長打となると三塁線を破った2ベースもしくは一塁線を破った2ベースor3ベースにほぼ限定されます。ゴロでのランニングホームランというのも記憶にはありません。
ここまでを総合するとヒットを打つにも、チーム得点への貢献度を高めるOPSにもフライを打つことが有効となります。
ゴロを打つメリットはあるのか?
では逆にゴロを打つメリットはなんでしょうか?相手のエラーの確率がやや高まることは先ほど触れましたが、レベルが上がるほど有効性は無くなりますし、そもそも相手のミスを待つというのがどうも個人的ですがしっくりきません。
その他のメリットを考えるとランナー2塁での右方向への進塁打や、ランナー3塁時に内野が後ろに下がっていればゴロで一点が入る可能性があります。
しかし、フライでも同様の結果もしくはそれ以上の効果を期待することができます。例えば外野フライを打てばタッチアップで2塁から3塁へ進塁させることもできますし、3塁から本塁への犠牲フライも生まれます。また打球が深い場合は1塁から2塁へのタッチアップも可能性があります。
浅いフライならタッチアップができないゴロなら確実に進塁できるということをおっしゃる方もいますが、ゴロも打球が飛んだ方向や強さによっては進塁が困難な場合がありますし、そもそもどうしても進塁させたいのであればバントを選択すべきですが、バントも100%で決めることはできません。
フライのメリット
フライにしかないメリットとしては塁が埋まっている状況でタッチアップができないフライでもダブルプレーが発生しないということです。例えば1死満塁で内野ゴロを打てばダブルプレーで攻撃が終了する可能性がありますが、フライではその心配はほとんどなく、次のバッターにチャンスを継続させることができます。ランナー1塁においてもそれは同様です。内野ゴロでダブルプレーになるくらいならフライアウトの方が傷は浅いでしょう。
守備側からの視点
また守備側の視点から見るとバッテリーに対し指導者は「低めに投げろ」と伝えゴロを打たせ最悪でも単打にさせようとします。これは高めは長打になりやすいから危険ということを知っているからです。それにも関わらず攻撃側になると考えが真逆になり矛盾してしまっていることに多くの指導者が気づいていません。
結論
簡単ではありますがこうした観点から、ゴロを打つことは得点を奪う上では非効率でありフライを打ってヒット、できれば長打を狙う方が効率が良いと言えます。
もちろん結果的にゴロを打つことで得点に結びつくケースもありますし、全員がホームラン狙いである必要はないと思います。野球を観る側とすると、三振かホームラン、フライアウトというよりは色々なプレーが起こった方が面白いとは思いますがどんなにフライを狙ったとしてもゴロを打たせたい投手がいる限りゼロになることはないでしょう。
最後に昔から言われる「上から叩け」はゴロを打てということではなく、極端すぎるアッパースイングのためミート率が下がっているので少しでもレベルスイングに近づけるために「上から叩く意識」で打てということだと私は思っています。実際に指導でも極端なアッパースイングの選手には「上から叩け」といってちょうど良いアッパーになったり、極端なダウンスイングに「下から打て」と指導してちょうど良いレベルスイングになることがあります。
このように実際のスイングと意識は技術が低い選手だけでなく高い選手でもずれていることがあるのでその辺りを個々に上手く調整してあげるのが指導者としてのスキルだと思います。チーム全体として「上から叩け」という方針が成り立つとしたら全員が極端なアッパースイングをしているか、相手投手の球速、ホップ量が高く、全員がボールの下を振ってしまっている時以外には有効ではないのではないかと思います。
悪いイメージを持たれる「フライアウト」その逆は(良いイメージ?)の「ゴロ」ではなく、本来はフライアウトとゴロアウトの間にある「フライ性もしくはライナー性のヒットや長打」であるはずです。その微妙なミートの差にある技術を指摘するのが本来の指導や練習のあり方であり、ゴロだから良い、フライだから悪い、という結果だけにフォーカスし、過程にある技術を無視しているチームや指導者が多い間はまだまだ仕事があり続けるのかなと逆説的に思います。
ここまでの話を既に「当たり前」「常識」と捉えていらっしゃる指導者の方も多いと思いますが、生徒から聞く実感としてまだまだ多くのチームが「今日は〇本もフライアウトがあった」とフライに対するネガティブなイメージを持っています。これが「今日は〇本もゴロアウトがあった」と逆のイメージを持つことができれば、選手育成の観点でも得点力という観点でも他チームに対して優位に立てるのではないでしょうか?